昼も遅い光が、雲の上から降って、湖畔を照らす。鳶色の髪がその光の下にきらきらと輝くのを見るのは、とても好きだ。笑った顔が空から遣わされた天使のようで、一層この世のものとは思えない風情を出している。と、こんなことを感動しながらも客観的に考えているのは、私が日本人だからという理由からではなく、単に一介の片思い中の女の子だからである。そうでなければこんなに冷静でいられるものか。 恋しているのは、彼に光が宿っているからだ。人が惹き付けられずにはいられない、瞳の奥底に輝く幸福の光。実際に彼は、友人たちといるときはいつも幸せそうに笑っていた。けれどそれだけではなくて、時たまに彼が見せる憂鬱な、と言うよりは全ての者を拒否するような諦めの眼差しも、それは綺麗に見えた。そう、思いは循環する。私には、私が光に引き寄せられているのか、恋しているから輝いて見えるのか、分からない。 「プロングス、めがね! めがね忘れてる!」 「おお、ありがとうワームテール!」 「杖がなくてどうするつもりなんだ、ムーニー。ほら」 「あっ、ありがとう、シリウス」 「パッドフットって呼べ、って言ったはずだけど」 「まだ慣れないんだ。気をつけるよ」 悪戯仕掛け人の朝はとても忙しい。朝食を終えたらすぐに何やら作業に取り掛かっているので、一限目には必ず送れてやって来る。私と、友人二人はとても真面目なので、彼らとは対照的に早めに授業の準備をする。だから、彼らと席が近くなることなどほとんどない。それはもはや掟のような諦め。 「あれ? さん、どうしたの?」 「えっ、あ、ポッター」 「こんなに遅いなんて珍しいね……っと、話している時間も無いらしい。急ごう」 「ああ、うん……そうだね」 廊下を走りながら、ジェームズ・ポッターはにこりと私に微笑んでみせた。悪戯っぽくもあり、慈悲深くもある。器用な彼は学校中の人気者で、多少授業に遅れてきたとしても、先生からの信頼が失われることはなかった。教員にだけではなく、彼はその存在そのものが大きくて、ただそこに「いる」だけで皆に安心感を与える。多分、悪戯でも何でも臆せずにやってのける度胸があるからだと私は思っているけれど、それと彼の繊細さとは別物だとも思う。日頃の観察結果を元に考えるに。 そんな私の冷静な心中をよそに、ポッターは、走るスピードを私に合わせながら言った。 「秘密ってのは、抱えておく方がいい場合とそうでない場合とにはっきり分かれるものだよ」 「ええ?」 「ううん。でも、秘密を抱えている人が魅力的に映る場合もあるしね。難しいところだ」 「ごめん、何を言っているのかさっぱり分からないよ」 本当に分からなかったので素直に首を傾げていると、ポッターは何やら「はっはっは」と愉快そうに笑って、ルーピンと、と呟いた。私はよもやその人の名前が出てくるとはまったく予期していなかったので、面白いほどに焦り、一瞬で滲んできた汗を隠し通すために拳を握った。 「仲良くなれて本当に良かったと思うよ」 「どうしてその話を、私に?」 「……うーん、どうしてだろう」 必死に走りながら、私は前方のポッターに気が付かれないように声を出して笑った。おかしくておかしくて仕方がなかった。ポッターも大笑いしていたので、別に笑顔を見せても構わなかったけれど、それでもスピードを緩めて彼の後ろを走ったのは、笑顔がいつ泣き顔に変わってしまうかとはらはらしていたから。 (何もかもお見通しというわけか!) |