Q.E.D.



2.

 僕は昔から、考えることが得意だった。
 どういう風に、何をすれば、どんなことが起きるかを綿密に頭の中で想像して楽しむことが好きだったし、そういった趣味とは相性が良いことに(周囲の大人からしてみれば、決して良くはないのだろうけれど)好奇心旺盛だった。そういう性質の人間で、悪戯好きな子供という人生の経過を辿らない人は珍しいと思う。
 12歳になってホグワーツに来てからは、生徒や先生に娯楽を提供するという名目で、シリウスたちと集まって悪戯を考えることが多くなった。
 それはいいのだけれど、何かを考えていないと落ち着かない性が祟って、ふと一人の静かな時間ができたとき、とりとめもないことを延々と考える癖がついてしまった。それは概ね意中の女の子のことで、時には勉強のことだったり、自分の将来のことだったりした。
 眠る前は特に、ピーターの小さないびきを聞きながらふっとのことを考える。リリーが散々嘆いている彼女の寝相の悪さがどんなものなのかとか、今日見たスカートのほつれ糸は明日には直っているだろうかとか、彼女の両親はどんな人なのだろうかとか。好きな人はいるのだろうか。とか。
 想像しては頭の中で打ち消し、そしてまた新たに思い描いて。それを繰り返しているうちに、自然と眠りに落ちることも多かった。

「寒い……」
 寝間着に着替えて眼鏡をテーブルの上に置き、冷たいベッドにもぐりこむと、さっきまで感じていなかった寒気に包まれる。不意に落ち着かない気持になった僕は、指先を脇の下に挟みこんだ。こうするといつも両親の側にいるときのような安心を感じることができるものなのだけれど、今日は不思議とうまくいかない。
 眠ってしまえば寒さも感じないでいられるのだから、眠ろう、眠ろう、と念じれば念じるほど、頭の中はいつものようにのことでいっぱいになってしまう。
 今頃はまだ、談話室の暖炉の前のテーブルで資料と顔をつき合わせているのだろう。
 彼女はレポートが苦手というわけではないのに、ギリギリまで手をつけないで締め切りの前日くらいからようやく焦り出す、という癖があるようだった。大体の場合、彼女が「どうしよう、あの課題まだなの」と言っている頃には僕はもう提出済みなので、手伝いや助言を求められることが多いのも僕だった。
 ほとんど毎回夜遅くまで付き合うことになるので、頼りにされることは嬉しくても、最近の僕は精神衛生上の問題であまりそれを喜べなかった。お礼と言って数日後にもらう手作りのお菓子を楽しみにしているのは事実なのだけれど。
「……あからさまだったかな……」
 さっきの立ち去り方は、我ながらおかしな慌てようだったと思う。仮にもレディを前にして逃げるように退去するとは――なんていう後悔ではなくて、単純に彼女に落ち着きのない人だと思われるのが嫌だった。
 まあ、彼女は俯いていたから去り際の僕の姿なんて見なかったろう。
 どうして自分があんなにも動揺したのか、考えてもしっくりくる答えのようなものは思い浮かばない。
 ただ本当に、彼女が一瞬見せた寂しげな表情が自分の心をひどく抉ったことだけは、はっきりと分かるのだった。